vol.2

 
南国のシンボルとも言えるココナッツ


[ココナッツという名前]

Coconut。ココナッツの「ココ」とは、「猿」という意味でポルトガル語、スペイン語に語源をもつ。 15〜16世紀頃、ポルトガルやスペインの商人が初めてインドにて、ココナッツを目にした時のこと。その不思議な実の殻が、なんだか笑った猿の顔のように見える。
「よし!この植物を、ココ(猿)と名付けよう。」
その後、ヨーロッパ中に普及されてからも、coco又はcocosと呼ばれるようになった。 イギリスでは当初、インディアンナッツといわれていたが、16世紀の半ばには、やはり同様に「ココ」と呼ばれ始めた。そして17世紀に入ってから、coco + nut で「ココナッツ」という英語名が完成したといわれる。 これは、ヨーロッパでの話。ココナッツの主な生息地、アジアに戻って目を向けてみると、タイ南部トラン県に保存された遥か昔の時代から伝わる古文書にも、ココナッツと猿を深く関連付けるこんな伝説が残っているという・・・。

 

[ちょっと悲しい昔話]

むかしむかし、ある森深くの僧院で一人の隠者が一匹の猿と一羽のムクドリと共にひっそりと暮らしていた。一見、ここには穏やかで静かな時間が流れているようにも見えたが・・・。 「こらっ!」と突然大きな声が響く。今日も猿が隠者に叱られているようだ。 その陰で、ほくそ笑むのはムクドリ。実は、猿を落としいれようと隠者に嘘の告げ口をしたのは、ムクドリの陰謀だったのだ。 こんなことが幾度となく続き、とうとう我慢が出来なくなった猿。ある日、隠者が果実を採りに僧院を後にしたのを見計らうと、ムクドリを捕まえ羽をむしり、竹筒の中へ詰め込んでしまったのだ! 猿がムクドリを殺してしまったことを知った隠者は、怒りにまかせて猿を激しく叩いた。 叩かれながら猿の心は、くやしさと悲しみでいっぱいになった。“先生(隠者)には愛がない・・・どうして真実を知ろうとしてくれないのか・・・!”失望した猿は、そのまま息絶えてしまった。 隠者は、猿の屍体を僧院の近くにそっと埋葬した。 いつしか時が過ぎ一人になった隠者の心にも静寂が戻ったころ、猿が眠る場所に一本の木が育ったのだった。それは、不思議な実をつける木。その実の外皮をむいてみると、中の核は、どこか猿の顔と似ているようにも見えた。隠者は、この実の果水を飲み、果実を食べてみた。とても美味しかった。清潔で純粋でまるで浄化されていくようだ。 気が付くと、隠者の目からは絶え間なく涙が流れ落ちていた。 このように発生した植物、ココナッツは、愛と憎しみが対になった猿の強い思いが込められていると伝えられる・・・。

 

[猿のお仕事]

さらに興味深いのは、この昔話が伝わるタイ南部やマレーシアでの猿のお仕事について。 ココナッツの木は成長すると、およそ18m程にもなる。これは、建物の4階に相当する高さだ。この高いココナッツの木に登り、実を採取するのが訓練された猿たちのお仕事という訳だ。身の軽い猿は、人間よりも器用に、おまけに効率的に作業をこなすといわれる。 一匹の猿で、一日に約600個もの実を採取できるというから、たいしたもの! ただひとつ難点なのが、ココナッツの木に時々棲息している赤蟻。噛まれると相当痛いし痒い。人間は、体に油を塗ることで保護できるけど、かわいそうなことに猿は、それができない。もしも、赤蟻の棲む木に当たってしまったら、当然、ถอยดีกว่า(降りて来た方がいい)ね。

「ココナッツ」という広く知られた名前の語源から、大昔から伝わるちょっと悲しい昔話、現在では減少傾向にあるとはいえ実際の猿のお仕事・・・と、なんだか不思議な関係性をもつココナッツとお猿さんなのだった。

 

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